「医説紅楼」(段振離著)より 人参の話 その1

漢方薬中医学)が分かる人には少しおもしろいかも

紅楼夢」には人参について書かれたところがたくさんある。第三回では、林黛玉が人参養栄丸を服用するところが描かれている。この丸薬の中心になる薬剤は人参である。人参養栄丸は、十全大補湯を基礎にして作られている。十全大補湯は10味からなっている。つまり人参、白朮、茯苓、甘草、当帰、熟地、白芍、川きゅう、黄ぎ、肉桂である。十全大補湯から川きゅうを取り除き,五味子、陳皮、遠志、姜、棗を加えれば人参養栄丸となる。第十回で,張太医は秦可卿に益気養栄補脾和肝湯を煎じた。14味の薬で,ほかに蓮子(去心)、大棗為引,人参が主の薬となる。第十二回の「王煕鳳毒設相思局,賈天祥正照風邪月〓」では,また繰り返し人参一味である独参湯について書いてある。賈天祥は王煕鳳の罠に引っかかって、「[月昔]月天気,夜又長,朔風凛凛,侵肌裂骨,一夜幾乎不曾凍死。」恋煩いは難禁,また添了債務,日中はひっきりなしの学問で、彼は自ら又不争気,手淫を繰り返し,さらに精を漏らして,危険が眼前に迫った。このときに「独参湯」を用いて生命を引き戻して救ったのだ。彼の祖父である賈代儒は,貧しい文人で、そんな力があるわけもなく、栄国府に助けを求めたのである。王夫人は鳳姐に、二両を彼に与えるよう命じた。しかし鳳姐は使いの者を訪ねさせることもなく、ただ小銭を寄せ集めて送った。危険な状態の重病人に対して、何銭かではどこに使いようがあろうか。そして賈瑞はあの世へ旅立った。
 第45回では、薛宝釵が林黛玉の薬方を見て、人参と肉桂が多すぎると感じ「益気補神とはいえども,余り熱いのはよろしくありませんわ」と述べて、林黛玉に平肝養胃を主として、「燕窩粥」を勧めている。第七十七回では、医者が鳳姐に丸薬の「調経養栄丸」を与えて上等の人参二両を用いる必要があるとしている。この二陵の人参をめぐっては、作者はここぞと筆をふるって、読者に多くの人参の知識を与えている。
 人参は世に名の聞こえた珍しい薬材であり、我が国の、悠久たる用薬の歴史の中で公認されている大補の品である。(続く)